少し前に「老後2,000万円問題」というのがマスメディアで話題になった。
2019年の金融庁の報告書から端を発し、当時の財務大臣が同報告書を受け取るの受け取らないのと発言したり、多くの人が老後資金の不足について心配・不安を抱くきっかけとなった。
当時はそれほど関心なかったが、今回改めて当該報告書を読んでみたところ思いのほか興味深かったので、参考にしつつ、老後資金の準備について自分なりの考えをまとめてみたい。
問題の発端となった報告書は、正式には、
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)
といい、今も公表されているので見たければ誰でもWeb上で簡単に見ることができる。
PDFで56ページあり、最初から最後まできちんと読もうとすると少し億劫だが、もしお時間があれば飛ばし読みでもいいので興味のある部分だけでもご覧になるといいと思う。
全員が一律2,000万円必要とは言っていない
報告書では、一定のモデルで試算した場合に、2,000万円の資金が必要になるといっているが、全員一律その金額が必要とは言っていない。
むしろ、ライフスタイルが多様化する中でそれぞれ置かれた状況が違うため一律でいくら必要とは言えないから個々に自分でよく考えましょう、という主旨のことを言っている。
読めば読むほど至極真っ当な内容と思うが、なぜこれが世間を騒がせるほど問題視されたのか今となっては全くの謎だ。
そもそも、一定のモデル(夫65歳以上、妻60歳以上で、世帯主が無職の世帯)において、毎月の赤字が約5.5万円になるから貯蓄がいくら必要となる…というのは、たぶん話の順序が逆ではないか。
つまり、貯蓄をいくら持っているから、毎月赤字が約5.5万円出せる、ということだろう。
そして、その貯蓄はおそらく退職金がメインではないかと思われる。
老後の生活にはいくらかかりそうか
老後において基礎的な生活に必要な支出は、現役時代に比べて減少する。
具体的な金額を報告書から拾うと次のとおりである。
50代(現役世代)で月額34万円(これを100%とすると)
60代で28万円(80%)
70代で24万円(70%)
…ということで、間をとって
「 26万円(75%)」が老後生活費の一つの目安になるだろう。
もちろん、人それぞれ状況は違うし、単身世帯ではもっと少なくなるはずだが、とりあえず。
なお、特別な支出(老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用)は別途必要と思われる。
一方で、公的年金はどれくらいもらえるかというと、現在、所得代替率は約60% (1949年生まれの場合)と言われているので、私の雑な解釈だと、34万円×60%=約20.4万円/月くらいと推測します。違ってたらすみません。
収入20.4万円-支出26万円=▲5.6万円の不足となり、
モデルの不足額、約5.5万円とほぼ一致する。
これを年金収入以外で賄う必要があり、おそらく退職金を原資とする貯蓄から補填するケースが一般的と思われる。
これまで、多くの人にとって老後を支える主な柱は、公的年金と退職金だったはずだ。
しかし、残念ながら報告書では、これから年金の給付水準は下がっていき、退職金も減少していくとの見通しを示している。
つまり、今後は年金と退職金だけでは乗り切れない可能性が大いにある、ということだ。
公的年金の給付水準は今後減っていく
現在、年金の所得代替率は60%(1949年生まれの場合)だが、今後、所得代替率は50%(1984年生まれの場合)にまで下がるようである。
これは少子高齢化により社会保障の負担が増大し、現状を維持できなくなり、給付水準を下げざるを得ないためだろう。
再び、私の雑な解釈だと、所得代替率50%の場合、34万円×50%=約17万円/月くらいとなり、
収入17万円-支出26万円=▲9万円不足する計算になる。
えっ、年間100万円以上も?
この計算がどの程度妥当なものか分からないが、それぞれで状況が異なるため、結局は自分の場合どうかというのを自分で調べるしかない。
自分がいくら年金をもらえそうか調べるには、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などを活用するとよい。
いずれにしても、今後も老後の収入のメインはやはり年金だろうが、あまり期待はできない。
退職金も今後減少していく、あるいはなくなる
また、退職金は現在平均1,700万円~2,000万円と言われているが、将来この金額も減少していくものと思われる。
退職金制度のある企業の数や、退職金の金額は、今後減少するし、そもそも規模の小さい企業は退職金制度自体がなかったり、あっても非常に少ない金額だったりする。
自分がいくら退職金をもらえそうかについては、勤め先で調べるとよい。
いずれにしても、こちらもあまり期待はできない。
老後資金をどのように準備したらいいか
1.各々がまずは自分の状況を把握すること
いくら年金がもらえそうか、退職金制度の有無、いくら退職金をもらえそうか、現在(あるいは老後)の生活費はいくらか、いくら貯蓄があるか、など。
「年金>生活費」 なら心配なし。極端な話、年金が少なくても、それ以下で暮らすことができればとりあえずセーフ、ということになる。
「年金<生活費」 の場合、2以下を検討。
2.つみたてNISAやiDeCoを活用して長期・積立・分散投資による資産形成(自助)に努めること
長寿化により、老後期間の長期化が予想されるため、資産寿命も延ばす必要がある。
そのためには、老後資金のすべてを預貯金のまま準備するのではなく、一部を税制優遇を受けつつ投資により運用することで、資産を増やせる(資産寿命を延ばせる)可能性がある。
もちろん、減る可能性だってあるのだけれど…。
ただ、この辺は人により向き不向き、リスクの許容度が異なるため、それぞれが自分で考えて「やる・やらない」を判断する方がいいだろう。
あなたがもし個人事業主や中小企業の役員であれば、小規模企業共済(自営業者向けの退職金積立制度)を最初に始めるとよい。掛金を満額(最大年間84万円、全額所得控除が受けられる)掛けてもまだ余資があるようならつみたてNISAやiDeCoに進む、という順番でよいと思う。普通の会社員には活用できない有利な制度なので。
3.人的資本からの収入を完全には失わないこと
年金では賄えない月○万円の生活費の不足を補う最も現実的な方法は、老後も「働く」ことだろう。
多くの人にとって人的資本は唯一にして最大の収入源。
健康上の問題が特になければ、月10万円程度なら比較的誰でもアルバイト等で稼げるレベルではないだろうか。
完全に無職になってしまうのではなく、働けるうちは多少なりとも働けば、それだけ貯蓄が減っていくスピードを緩めることができるし、社会との接点も多く作れるので一石二鳥だ。
ただし、この方法で行く場合、健康寿命を延ばすことが肝になるが、人の身体機能や認知・判断能力は誰しもいずれは衰えていくだろうから、どんなに働きたくてもいつかは働けなくなる日がやって来る。
そうなった場合に備えて、勤労による収入以外の収入が少しでもあると心強い。
「勤労による収入」とは、例えば、給与所得や事業所得など、自分が働くことで得られる収入のこと。
「勤労による収入以外の収入」とは、例えば、不動産所得や利子・配当金所得など、自分が働かなくても得られる収入のこと。金融資本からの収入といっても良い。
4.金融資本からの収入を若いうちから育てること
老後に働けというのが酷であるとすると、「働かずに得られる収入源」の確保を検討することになる。
不動産や債権・株式などからの収入は、人的資本への依存度が低い代わりに、金融資本への依存度が高くなる。
ある程度まとまった金額の収入を得るためには、いわゆる「元手」がかなり必要となるし、相応のリスクもある。
その代わり、「年金+金融資本からの収入>生活費」 となれば、100年生きてもまだ生活は持続可能になるはずだ。
少なくとも理屈の上では。
老いはつまり、人的資本の縮小と言い換えてもいい。
若いうちから、人的資本からの収入の一部を使って、金融資本からの収入の形成につとめる。
時間はかかるかもしれないが、人的資本に依存しない収入源を少しずつ育てていくのが、老後資金の準備のための根本的な解決策の一つだと私は思う。
以上の準備をして、心穏やかに老後を迎えたいものです。
